最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)335号 判決 1948年7月29日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人勅使河原直三郎の上告趣意は末尾添附の別紙に記載の通りである。
しかし、刑事訴訟法第三百六十條第二項にいわゆる「刑ノ減免ノ原由タル事実」とは刑の法律上減輕又は免除を爲すべき事由を指すのであって、刑の執行を猶豫すべき情状を含まないことは、既に當裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一六七號同二二年一月二七日言渡)の示すところである。蓋し前者の場合に於ては、法律に規定せられた特定の事由があれば必ず刑の減免が爲されなければならないのに對して、後者の場合には、ある情状が認定せられたとしても、その情状が執行猶豫を言渡すべき事由に該當するか否かは裁判所が個々の事件につき諸般の事情を勘案して自由に裁量し得るところである。刑事訴訟法第三百六十條第二項は、両者のかような性質の相違に着眼してこれを差別的に取扱っているのである。若し論旨のように「刑ノ執行猶豫ハ刑ノ減免ノ場合ト同ジク刑ノ量定ニ重大ナル影響ヲ及ボス事項ニシテ彼ト是トヲ區別スベキ特段ナル事由ヲ認ムルコトヲ得」ないという理論を貫けば、結局犯情に關する凡ての主張が、刑の量定に重大なる影響を及ぼす事項として悉く同様に取扱はれなければならないといふ結論となり、刑事訴訟法が特に第三百六十條第二項の規定を設けた趣旨が失はれることとなろう。故に論旨は理由がない。
よって刑事訴訟法第四百四十六條に則り主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)